綾辻行人と有栖川有栖のミステリ・ジョッキー(1)

人気作家、綾辻行人有栖川有栖の二人が、ラジオのDJ(ディスク・ジョッキー)よろしく音楽を流す代わりに短編ミステリをまるまる挿入して読者に読ませ、然る後にその作品の構成やトリックにふれながら本格ミステリの何が面白いのか語り合うという本。
雑誌「メフィスト」での連載を書籍化したもの。


綾辻行人と有栖川有栖のミステリ・ジョッキー(1)
有栖川 有栖 (著・編) 綾辻 行人
講談社
売り上げランキング: 86963
おすすめ度の平均: 4.0
4 こういう企画はどんどんやってほしい。


本格ミステリカードヒーローには通じるものがある。


本書に収録されている作品は以下の通り。

第1回 それぞれの"ふるさと"
Disc 1 技師の親指 コナン・ドイル
Disc 2 赤い部屋 江戸川乱歩
第2回 早くも番外編
Disc 3 恐怖 竹本健治
Disc 4 開いた窓 江坂遊
Disc 5 踊る細胞 江坂遊
Disc 6 残されていた文字 井上雅彦
第3回 ミステリとマジック
Disc 7 新透明人間 ディクスン・カー
Disc 8 ヨギ ガンジーの予言 泡坂妻夫
第4回 ミステリとパズル
Disc 9 黒い九月の手 南條範夫
Disc 10 ガラスの丸天井付き時計の冒険 エラリー・クイーン

私が特に面白かったのは、「Disc 6 残されていた文字」と「Disc 8 ヨギ ガンジーの予言」。


「ミステリとマジック」の回で、有栖川有栖はこう語っている。

これもミステリでときどきあるパターンですね。ある目的を達成するために、全然違うほうに球を投げるというトリック。

このようなトリックは、カードヒーローの対戦でも上手な人はしばしば使ってくる。
自分の意図を相手に悟られないようにするため、あえて自分視点での最善手ではない行動をとるのだ。
そうすることで、相手が「妥当な」読みを展開してくれれば自然に相手は判断ミスを犯すことになり、結果的にその後の試合展開は最善手をとっていたときよりも良くなる場合がある。


様々なジャンルの小説の中でも特に本格ミステリは、作品を通じた作者と読者のコミュニケーションが密だ。
作者は小説中の各時点で読者の頭の中がどのようになっているのか想定し、ときにミスリードを誘えるように、ときに世界がひっくり返るような驚きを与えられるように計算して、文章をつづっている。
先に書いたようなカードヒーロー心理的駆け引きが面白いと感じている人なら、本格ミステリもきっと楽しめることだろう。